東京高等裁判所 昭和58年(行ケ)69号 判決
一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本件考案の要旨)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。
1 成立に争いのない甲第一号証(本件公報)によると、本件公報の考案の詳細な説明の項に次のような記載があることが認められる。
(1) 本件公報の第1図に示すような従来の芯上下式石油燃焼器においては、芯を最大限に降下して消火した場合、芯上端部の空間に残つた油ガスが、空気不足のため速やかに燃え尽きず、上部開口部からの空気の流入によつて少しずつ燃焼し、完全に消火するまでに一ないし四分程度を必要としていたから、消火操作時には多量の未燃焼ガスを発生し激しい悪臭を放つという欠点があつたこと(第一欄第三〇ないし第三八行参照)。
(2) 本件考案は右欠点を除去すべく考案されたものであつて、芯を降下させた場合、短時間に消火することのできる芯上下式石油燃焼器を得ることを目的としたものであり、この目的を達成するため、前記本件考案の要旨のとおりの構成を採用したこと(第一欄第二七ないし第二九行、第二欄第一、二行参照)。
(3) 右構成に基づき、消火時間が短縮されるという作用効果だけでなく、空気孔及び空隙の掃除が極めて容易となるとともに、製作が簡単となり、コストダウンを計ることができるという作用効果をも奏すること(第四欄第一ないし第六行参照)。
2 判断遺脱の主張について
原告は、審判手続において、本件公報の考案の詳細な説明の項第二欄第三五ないし第三八行の記載が、当業者の技術常識に反すると主張し、このことを立証するため、空気孔の内外の気圧を測定し、空気は外から内に流れることを明らかにした実験報告書(本訴甲第九号証の一)を審判長に提出したが、審決は、原告のこの主張、立証について判断を遺脱したと主張する。
原告の右主張は、本件公報の第6図に示すように芯外筒に空気孔を設けただけで、本件考案のような空隙を有しない従来例の構造の石油燃焼器(本件公報の第1図に示す従来例の芯外筒に空気孔が設けられているか明らかでないので、同じ従来例でも第6図に示すものと第1図に示すものは別個のものとして、以下の判断を進めることとする。)における気孔燃焼(消火時に空気孔において生起する現象)の生起が当業者の技術常識に反しているとの点を指摘するものであるところ、審決においては、右甲第九号証の一の実験報告書を「芯内外筒間隙のドラフト試験の報告」と呼んで、これについて「消火時に空気孔において生起する現象は、芯内外筒空隙内と大気との圧力差にのみ依存するものとは認められないから、このデータのみによつて本件考案の課題を架空のものとすることはできず、また本件考案の作用効果を否定することもできない。」と説示し、要するに、気孔燃焼は「芯内外筒空隙と大気との圧力差」にのみ依存するものではなく、他の要素を含めた総合的な燃焼条件に応じて生起するのであるから、右圧力差だけを示す右実験報告書のデータのみによつて、本件公報の考案の詳細な説明の前記記載にいう気孔燃焼は生起せず、したがつて、本件考案の技術的課題は架空のものであるとすることはできないとして、原告の前記主張を採用しない旨の判断を示したことが明らかである。
審決に判断遺脱の違法があるとの原告の主張は理由がない。
3 明細書の記載不備の主張について
(1) 願書に添付すべき明細書の考案の詳細な説明における考案の目的、構成及び効果の記載は、当業者が容易にその実施をすることができるということを基準とすべきものであるから(実用新案法第五条第三項)、考案の目的、構成及び効果のいずれかにおいて記載内容が不十分、不明瞭であるとか、記載内容が前後矛盾し、一貫性を欠き不確定であるなどして、当業者が考案を正確に理解することができず、このために考案を実施することができないような場合には、明細書の考案の詳細な説明は右条項の要件を満たさず、ひいて同条第四項の規定の要件を満たさないという瑕疵を帯びることがあるというべきである。そして、実用新案登録が実用新案法第五条第三項及び第四項の規定の要件を満たしていない実用新案登録出願に対してなされたものに該当するときは、その実用新案登録を無効にすることについて審判を請求することができるが(同法第三七条第一項第三号)、考案の構成を開示する明細書の実用新案登録請求の範囲の記載事項は複数の技術的手段から成り、考案の詳細な説明における考案の目的、構成及び効果の記載も、これらの技術的手段の個々についてそれがどのような働きをするかを説明するとともに、それらが相互にどのような関連をもつて考案の目的を達成するために作用しているか、また、それらの技術的手段の相互的関連に基づいてどのような具体的効果が生じるかを開示する多様な内容となるのが通常であるから、同法第五条第三項及び第四項違反を理由に登録無効審判を請求する者は明細書の記載のどの部分にいかなる態様の不備(要件の不充足)があるかを特定具体的に主張しなければならないのであり、したがつて、甲の記載不備を主張して登録無効審判を請求した請求人が審決取消訴訟において乙の記載不備を主張して審決の違法を攻撃することは、乙の記載不備が甲の記載不備に実質上包含される関係にあるなどの事情がない限り、審判手続において主張判断を経ていない事項に基づき審決の違法をいうことに帰し、許されないものというべきである。このような観点から、以下に原告の主張の当否を検討する。
(2) 成立に争いのない乙第一号証(審判請求書)によると、原告が審判手続において本件考案の明細書の記載不備として主張したのは、明細書中の、「鍔片6、8で空気孔7に連通する空隙9を形成することにより、空気の流入するスピードが速くなり残溜ガスが空気孔7より逆流することがなくなる」という記載(本件公報の考案の詳細な説明の項第三欄第一ないし第四行)は、説明が不十分で理解し難い表現であり、右記載には、被告の出願に係る昭和五二年実用新案出願公告第一八七三六号公報(甲第二号証)及び昭和五四年実用新案出願公告第二四三四〇号公報(甲第三号証)の考案の詳細な説明の項で「残溜ガスが逆流する」と説明されているのと全く正反対の理論が示されていることからしても、不明瞭であることが明らかであるという点にあつたことが認められる。そして、右の点のほかに、原告が審判手続において、本件考案の明細書に記載不備があることを裏付ける事実を主張したことを認めるべき証拠はない。
(3) そこで原告が本訴においてなした明細書の記載不備の主張をみると、まず、請求の原因四、1記載の本件考案の<1>の構成要件である芯外筒と上部金具の二部材を着脱自在となしている点についての本件明細書の記載は不備なものであるとする主張(請求の原因四、3、(2))は、審判手続における明細書の記載不備の主張で触れていない右<1>の構成要件、すなわち本件考案を構成する技術的手段の一つについて、それが請求の原因四、1記載の<2>、<3>の構成要件、すなわち本件考案を構成する他の技術的手段とどのような関連をもつて本件考案の効果をもたらすかについて本件考案の明細書の考案の詳細な説明の記載が不明瞭であるとする趣旨のものと解されるところ、このような主張は審判手続においてなされていなかつたものであるから、本訴で、これを主張することはできない。
(4) 次に原告は、請求の原因四、1記載の本件考案の<3>の構成要件、すなわち、「芯外筒及び上部金具の上方に」設けられた環状鍔片によつて上部金具の側壁に複数個設けた空気孔に連通する空隙を形成したことによる油ガスの流れに関する考案の詳細な説明の記載について、明細書の記載不備があると主張する。すなわち、原告は、本件公報の考案の詳細な説明の項第二欄第二九ないし第三一行の「空気は空隙9より空気孔7を通つて温度の高い芯2の上端部へと急速に流れ」との記載は、本件公報の考案の詳細な説明の項第二欄第三二、第三三行及び第三欄第一三、第一四行の「燃えなかつた油ガスは(が)空気孔より外部に放出される」との記載並びに被告出願に係る昭和五二年実用新案出願公告第一八七三六号公報(甲第二号証)の考案の詳細な説明の項第二欄第一四、第一五行の記載、及び同じく被告出願に係る昭和五四年実用新案出願公告第二四三四〇号公報(甲第三号証)の考案の詳細な説明の項第三欄第二四ないし第二六行の記載と対比すると、空気孔(小孔)におけるガスの流れについて全く正反対であるところ、もともと本件考案における空隙9は、甲第二号証記載の考案における芯外筒3の外方に形成した予備室4、甲第三号証記載の考案における芯外筒12の外方に形成した空室16を薄くして空隙としたものであつて、室の形状が、本件考案におけるように空隙状に薄くなつても、ガスの流れは甲第二、第三号証記載の考案におけるものと変わらないと考えられるにかかわらず、本件考案の明細書では、ガスの流れの逆転のメカニズムを明らかにした記載がないから、記載の不備があるというべきであると主張する。
これを審判手続における主張と対比すると、原告が本訴において問題視している記載部分(本件公報の考案の詳細な説明の項第二欄第二九ないし第三一行)と審判手続において問題視した記載部分(同第三欄第一ないし第四行)とは一応別個であるが、前者の記載部分には、それに続いて「芯2上端部に溜まつている残溜ガスと混合して燃焼を促進させる。」(同第二欄第三一、第三二行)という記載があることからみれば、両記載部分とも、空隙9の作用により、外から内へと空気が流入し、残留ガスが空気孔7より外へ逆流しないという状況を説明するものである点において変わりがなく、ただ、審判手続においては、問題視していた記載部分が甲第二、第三号証の記載と空気孔(小孔)におけるガスの流れが全く正反対であると主張していたのに対し、本訴においては、問題視している記載部分が甲第二、第三号証の記載のみならず、本件公報の考案の詳細な説明の項の他の記載(第二欄第三二、第三三行及び第三欄第一三、第一四行)にも反すると付け加えて主張するにすぎないのであるから、本訴における明細書の記載不備の主張は実質上審判手続における明細書の記載不備の主張に包含されているものと認められ、したがつて、主張自体失当とすることはできない。
ところで、明細書の記載の不備の存否は、本件考案の明細書の記載自体に即して判断されなければならないから、構成及び作用が相違する別の考案の明細書の記載を引き合いに出してこれを判断することは、たとえ、それが本件考案の考案者と同じ者の考案に係るものであつても許されないものというべきである。そして、原告主張の甲第二、第三号証記載の考案の構成が本件考案と異なることは、原告の右主張自体から明らかであり、かつ成立に争いのない甲第二、第三号証によつて認められる右各考案の実用新案登録請求の範囲の記載からも認められ、したがつて、本件考案と作用が同一でないことも、自明であるから、甲第二、第三号証記載の考案の詳細な説明の項の記載を引き合いに出して、本件考案の明細書の記載の不備をいう原告の主張は理由がない。
(5) また、本件公報の考案の詳細な説明の項第二欄第二九ないし第三一行の「空気は空隙9より空気孔7を通つて温度の高い芯2の上端部へと急速に流れ」との記載は第二欄第三二、第三三行及び第三欄第一三、第一四行の「燃えなかつた油ガスは(が)空気孔より外部に放出される」との記載と明らかに矛盾するとの原告の主張についてみると、前記1で判示したとおり、本件考案は、その明細書の記載により、その目的、構成及び作用効果を矛盾なく合理的に理解することができるところである。そして、原告が右に主張する点は、消火操作によつて芯が急に下げられたときにおける、空気孔での残留ガスの放出と空気の流入との関係に関するものであるところ、原告が指摘する本件公報の右各記載をもつて、同時に残留ガスの放出と外気の流入とが現出することを説明しているものと解するのは不自然である。むしろ、消火操作によつて芯が急に下げられると、芯上端部に空気が空気孔を通つて流れ込んで(なお、上部開口部からも流れ込むと推定される。)、芯の上端部の残留ガスと混合して燃焼が促進されるが、その後、空気孔を介して空気が流れ込んでも、芯自体及び内外筒は加熱状態が続いていること、及び、芯上端部が負圧であるために空気が流入する一方であるとすると、流入した空気の逃げ口がどこに存するか不明であることになることにかんがみると、芯の上端部では残留ガスに空気が混合して流動状態が続くと推定するのが常識的であり、したがつて、芯上端部に開口した空気孔から外気が流れ込む一方で、そこから残留ガスが流出することもあり得ると推定するのが自然的な見方であるといわざるを得ない。
そうすると、本件公報の考案の詳細な説明の項には、原告主張の矛盾は存しないというべきである。
(6)ア さらに原告は、本件公報の考案の詳細な説明の項には、第6図の従来例のように空隙を有しない構造の石油燃焼器にあつては、芯下げをしたとき「残溜ガスが空気孔7より外部に流出し、芯外筒3の側壁で燃焼する」との説明(第二欄第三五ないし第三八行)があるが、これは当業者の技術常識に反する記載であると主張する。
右主張は、原告が審判手続において明細書の記載不備に当たるとして指摘した本件公報の考案の詳細な説明の項第三欄第一行ないし第四行の記載、すなわち空隙9の作用により流入する空気によつて残留ガスが空気孔7より逆流することがないとの記載の前置きとして、本件考案が当該作用により解消した従来技術の欠陥を記述した部分をとらえ、それが当業者の技術常識に反するとして、間接的に、本件考案における空隙9の作用を述べた前記考案の詳細な説明の記載が不備であることをいう趣旨であると解される。右主張は、審判手続における明細書の記載不備の主張に実質上包含されるものということができるので、これを許されないとすることはできない。
イ 右主張は、第6図の従来例の構造の石油燃焼器におけるように芯外筒に空気孔のみが存し、空隙が形成されていないものにあつて、芯下げに伴つての気孔燃焼はあり得ないとするものであり、原告は、その主張を立証するために、甲第九号証の一(実験報告書)を提出しているので、これについて検討する。
成立に争いのない甲第九号証の一によると、芯内外筒間隙のドラフト試験で、芯式・放射形石油ストーブ(原告製RCA―36D)の芯外筒に空気孔を開けた試験品につき、通常燃焼中から消火操作後の条件変動の下において、芯内外筒間隙における圧力がどのように変化するかについて測定をしたところ、
<1> 通常燃焼中は、-0.02mmAgの圧力がかかること、
<2> 消火操作によつて、芯が空気孔(小孔)より下方に下がると、-0.05mmAgの圧力がかかること、
<3> その後圧力は徐々に零に近づくよう変動していくが、正圧になることはないこと、
の実験結果が得られたこと(なお、右実験結果中にある圧力(差)の単位・mmAgは、mmAqの誤記であると推測し得る。)、その実験報告書の作成者は、右実験結果から、燃焼のための空気は、常に芯内外筒間隙に向かつて流れており、したがつて、可燃ガスが外方へ流出することや、流出した可燃ガスに引火することは起こらないと結論づけていることが認められる。
しかしながら、右甲第九号証の一によると、同報告書に係る実験は、試験品の石油燃焼器について約二分半燃焼させた場合に、燃焼前の芯内外筒間隙の圧力、燃焼中の圧力及び消火後の圧力がどのように変化するかを測定したものであることが認められ、この実験は、特定構造の石油燃焼器の一機種について特定条件下で行つたものにすぎないものであることが明らかである。そして、後記乙第四号証によると、シヤープHSR―38H型石油ストーブの改造品につき行われた実験Ⅰでは、消火操作を行つた際に、瞬間的ながら、大気圧より高い圧力が観察されたことが認められる(この現象が、原告が主張する、急速な芯下げによる一瞬の空気吹上げによるものとみることもできるが、他面、このことから生じるものに限られるとすべき根拠もないというべきである。)のであつて、このことに気孔燃焼が、後にみるように、各種要素の関り合いによつて生じるものであり、同一構造のものであつても、構造以外の諸要素が燃焼条件に適合しなければ、気孔燃焼が生起しないし、反対に、構造以外の諸要素が燃焼条件を満足する場合であつても、構造が異なれば、気孔燃焼が生起しないことがあり得るのであるから、気孔燃焼の生起の可能性を一実験例で否定することはできないといわざるを得ないことを合わせ考えると、甲第九号証の一の実験結果のみをもつて、気孔燃焼があり得ないと即断することはできないものというべきである。
ウ 弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第三号証(被告の技術担当者作成の実験報告書。原告は、この書証につき、特許庁の判断を経ていないから、これに基づき判断することは許されない旨主張するが、この書証は、本件明細書の記載の意義を明らかにするために提出されたものであり、この点に関する判断資料とするものであるから、原告の右主張は採用し得ない。)によると、同報告は、シヤープHSR―37H型石油ストーブの改造品(弁論の全趣旨によると、本件公報の第6図の従来例に係る実施品であると推認することができる。)につき行つた実験に関するもので、報告書に、芯外筒上部に開けた空気孔から残留ガスが流出し、外方へ拡散した状態が撮影された写真が存すること、右実験は、芯に点火して三〇分を経過した後、消火位置まで芯を下げて消火を行い、芯外筒の上部に開けた空気孔から残留ガスが流出するか否かを観察したものであり、右写真は観察と同時に撮影されたものであることが認められる。
また、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第四号証(被告の技術担当者作成の実験報告書。この書証に関しても、原告は、乙第三号証と同様の主張をするが、乙第三号証と同じ理由により採用し得ない。)によると、シヤープHSR―38H型石油ストーブの改造品(弁論の全趣旨によると、本件公報の第6図の従来例に係る実施品であると推認することができる。)につき行われた実験Ⅱで、ストーブの燃焼中においては、芯外筒の空気孔の外面に加熱されたセラミツクヒータを臨設しても、空気孔外面で燃焼が生じることはない(写真3、4)が、消火操作をした直後においては、空気孔外面とセラミツクヒータ部分に燃焼が生じた状態が観察されて、写真撮影されたこと(写真5)が認められる。
エ 右乙第三号証の実験報告書に示される消火後の残留ガスの流出、及び乙第四号証の実験報告書に示される実験Ⅱでの消火後の空気孔外面での燃焼が、原告主張に係る、急速な芯下げによる一瞬の空気吹上げという現象に基づくものなのか、あるいは、本件考案の明細書に記載があるように、空気孔から外部に流出した残留ガスによるものなのかの点は、必ずしも判然としないが、少なくとも、残留ガスの流出あるいは空気孔外面での燃焼が、空気吹上げ現象によるものであると認めるべき証拠は見いだせない。
乙第四号証の実験報告書に示される空気孔外面での燃焼は、空気孔の外面に臨設されたセラミツクヒータにより発生したものであるから、本件考案の明細書に記載された気孔燃焼に相当するものではないが、少なくとも、消火後に空気孔から燃焼の可能性のある残留ガスを流出する現象が生起したことを認めることができるから、右実験で確認された空気孔外面での燃焼は、気孔燃焼の可能性を認めるに足りるものというべきである。
オ そして、気孔燃焼は、本来の燃焼でないため、常に安定して得られるものではなく、その生起のための各要素が燃焼条件を満足した場合にのみ生起することは、容易に理解することができるが、今日において、その細部における具体的な燃焼についての理論は解明されていないものといわなければならない。右にみたように、乙第三、第四号証の実験報告書では、気孔燃焼それ自体の生起を示すものではないが、右乙号各証の前記内容からすると、気孔燃焼が存在することを推測せざるを得ないものというべきである。
カ 以上みたところによると、本件公報の第6図記載の従来例のように空隙を有しない構造の石油燃焼器にあつては、芯下げをしたとき「残溜ガスが空気孔7より外部に流出し、芯外筒3の側壁で燃焼する」との本件公報の考案の詳細な説明の項の説明(第二欄第三七、第三八行)は当業者の技術常識に反する記載であるとの原告の主張は理由がないというべきである。
これを要するに、本件考案の明細書の記載不備をいう原告の主張はことごとく失当である。
4 先願考案との間の相違点の判断の誤りの主張について
原告は、本件考案の請求の原因四1記載の<3>の要件は技術常識に反する考案の詳細な説明の項の記載を前提とするものであり、少なくとも該記載について技術的裏付けを欠くから、本件考案を技術的に評価する場合、<3>の要件は無視すべきものであると主張する。
この前段の主張が理由のないものであることは、前記3、(6)で判示したとおりである。
また、<3>の要件における空隙が、気孔燃焼の防止機能を有し、消火時間の短縮という作用効果を奏することについては、前記1及び3、(5)で判示したとおりであつて、原告主張のように観念的なものにすぎないということはできない。
審決には、原告主張の相違点の判断の誤りは存しない。
5 してみれば、原告主張の取消事由はいずれも理由がなく、請求人(本訴原告)の主張する理由によつて本件考案を無効なものとすることはできないとした審決の判断は正当である。
三 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は失当としてこれを棄却することとする。
〔編註〕本件考案の要旨は左のとおりである。
芯外筒と芯内筒の間に芯を上下摺動自在に介挿してなる芯上下式石油燃焼器に於いて、芯外筒の上端部にこれと同心円上の上部金具を着脱自在とすると共に、該芯外筒及び上部金具の上方に空隙を形成する環状鍔片を形成し、該空隙に連通するよう上部金具の側壁に複数個の空気孔を形成した事を特徴としてなる芯上下式石油燃焼器。
(別紙図面(1)参照)
〔編註その二〕本件に関する図面は左のとおりである。
別紙図面(1)
<省略>
(以下省略)